どのような事業であれ、起業はスモールスタートをおすすめします。小さく初めて徐々に改善して、売上が伸びればそれに見合った投資をして次のステップに進めば良いのです。もちろんフードビジネスも例外ではありません。
ところが大企業の脱サラ組、定年退職組の方はどうしても大きく考えられるようで、自分の資金を目いっぱい使ってラージスタート(時には身の丈を超えたヒュージスタート)される傾向にあります。その結果見通しが少しでも外れるとそれが致命傷になって資金が枯渇するとともに撤退されるように見受けます。
まだ若い方なら再就職して借金を返済していくこともできますが、年配の方ですと再就職もできず、老後資金の代わりに借金だけが残るということにもなりかねません。
なぜスモールスタートなのか
スモールスタートであれば運転資金を厚めに持っておけるので、芽が出るまでじっくり耐えることもできます。それでも足りなければ、たとえばアルバイトと掛け持ちしながらでも店を維持できますし、そうして成功した飲食店経営者もいます。万が一うまく行かなくても、スモールスタートなら撤退した時の傷も浅くて済みます。
もともと飲食店は他の業界に比べてスモールスタートに適した業界です。製造業のように広い工場やたくさんの設備を持つ必要もありません。不動産業のように元手も必要ありません。農業のように土地や農機具も必要ありません。しかも資金回収も早くて(食い逃げされない限り)確実です。他の業界では手形で決済だとか、そもそも支払いサイトが長いこともあります。
スモールスタートのための2つのポイント
そのような飲食店がさらにスモールスタートするのは簡単です。ポイントはたった2つです。
人件費を減らす
人件費を減らすといってもまさか従業員の給料を下げるわけにはいきません。給料を落とせばそれなりの人材しか集まりませんし、まったく人が応募してこないこともありえます。ですから給料は維持しつつ少ない人数で運営することを目指します。もちろん労働集約産業であるサービス業で人数を減らすには工夫が必要です。安易に人員を減らすとお客さまをお待たせしたり、目が行き届かなくてサービスが低下します。さらに回転が落ちると経営効率も悪くなります。
家賃を減らす
家賃が安いからといって立地を犠牲にしてはいけません。家賃というのは基本的に同じような立地であれば坪(平米)単価×面積です。立地の良いところは坪(平米)単価がどうしても高くなります。それであれば面積を減らせばよいのです。面積を減らして家賃が下がると保証金なども安くなるというメリットもあるのです。
あと自宅の片隅を改造して開業するという裏技もあります。もしくは店舗付き(併用)住宅に移るのも手です。
※他にもいろいろ減らせそうなところはありますが、商品やサービスのレベルを落としてスモールスタートするのは間違いです。商品やサービスのレベルが落ちればそれに見合った価格にしないとお客さまはつきません。だから商品やサービスのレベルに見合った売上にしかなりません。
2つのポイントを押さえるとカウンターに行き着く
人件費と家賃を減らした飲食店のもっとも洗練された経営システムが「カウンター」です。カウンターであれば向かい側に座っているお客さまに料理をそのまま出すだけです。配膳のためのホールスタッフは必要ありません。必要だとしてもせいぜい一人です。
カウンターのみであれば客席の後ろに通路を確保しておけばテーブル席のように前後左右に広い空間は必要ありません。お客さまもカウンターであれば隣や他のお客さまとの距離を気にしません。しかしテーブル席では途端にお客さまのパーソナルスペースが広くなる傾向にあります。
この素晴らしいシステムは洋の東西を問わず、先人達も実践してきました。たとえばお寿司屋さん。大将がカウンターの中で握って、そのままお出しします。奥さんがテーブルを拭いたりお茶をだしたりします。あるいは喫茶店。マスターがカウンターの中でコーヒーを入れて、そのまま出します。たまにウェイターやウェイトレスさんがいたりします。
この「カウンター」という素晴らしいシステムを利用して飲食業界未経験者が開業するのに適した業態を提案します。
スモールスタートに適した8つの業態
駄菓子バー(酒場)・缶詰バー(酒場)
駄菓子や缶詰をフードとして出す業態です。調理ができる必要はありません。ただしフードの原価がお客さまにもバレやすいので価格は抑えざるをえません。お酒も凝ったものは出す必要もなくオペレーションしやすいでしょう。
焼き鳥屋・もつ焼き屋
仕込み(下ごしらえ)さえしておけば、営業時間中はひたすら焼いたり、盛り付けたり、お酒を作ったりするだけ。調理の経験も少ない方にはお勧めです。お酒の酒類もさほどこだわる必要も無いのでドリンクのオペレーションも手軽です。
ただ問題はタレや煮込みの味の完成度をどれだけ上げられるかです。
おでん屋
これも仕込みをしておけば営業時間中は煮込んで出すだけです。あとはお酒を作ったり、他のおつまみや簡単な料理を作る程度です。お酒もビールと日本酒と焼酎ていどですからドリンクも簡単です。
やはりこちらもダシの味の完成度を上げていけるかがポイントです。
ワインバー・日本酒バー
少し料理に自信があればスモールスタートしやすい業態です。カクテルなどはないのでドリンクのオペレーションは手間がかかりません。ただしワインも日本酒も劣化しやすいのでグラス売りのやり方は考慮が必要です。
またフードもある程度のレベルである必要があります。ただ毎日多くの種類を出す必要はなく、そのときの旬の食材などで調理して大皿に盛ってカウンターに置いておきます。それに乾き物のおつまみを上手く組み合わせればよいでしょう。
>>現役ダイニングバー社長によるワインバー・日本酒バーの開業支援
バー
かなり難易度は上がりますが、スモールスタートには適した業界です。しかもお酒は食材に比べて日持ちするものが多いので、在庫のロスの心配もあまりありません。
ただしカクテルを作ったりするスキルが必要になります。それなりの修行が必要な業態です。ただバーテンダースクールなども整備されているので修行はしやすいと思います。
>>現役の人気バーオーナーによるバーの開業支援